サークル「蛸壷屋」のけいおん同人誌が神すぎる件

もっとも有名な(?)けいおん同人誌


【作品情報】 「万引きJK生 けいおん部」「レクイエム5ドリーム」「THAT IS IT」
ジャンル:マンガ同人誌(すべて18禁)
初出:C76、C77、C78
梗概:元HTTメンバーの「その後」を描く。
個人的評価:★★★★★(星5つ)
参考URL(ネタバレ有):蛸壷屋とは (タコツボヤとは) [単語記事] - ニコニコ大百科


【コメント】
とりあえず「マブラヴ」の時に書いた、エロはおまけ理論を発動させてください。でないと話が前に進みませんので。


エロゲを語る、ということ。 - 雑想ノオト - 良いモノに触れたときの感動は代替不可能だから


しかし何だろうね、この神がかりっぷりは。原作を知っているとは言え、二次創作にここまで心動かされれるというのも珍しい。そしてこの批評性の高さ・・。

まずは何と言っても、原作やアニメであったゆるーい萌え風味が、完全にぶっ壊されている様は驚きである。原作から考えるとあり得ないほどハードなHTTメンバーの「その後」を描きながらも、それが妙なリアリティを保っているから謎だ。AAで有名な律のセリフ、「ありゃー…唯とうとう死んじゃったのか…」(仕事の昼休憩中、ラーメンを啜りながら)が、そのあたりの象徴であろう。

また、同人誌特有のありえねぇエロ要素が加味され、遺憾なことではあるが、これがまたキャラクター達の身体性獲得に一役買っている。想えば原作やアニメでは、そういうのが徹底的に排除されて、純なゆる萌え路線を走っていたのではないか。かの「ONE PIECE」も、恋愛とか性的なコトなんかは意図的に排除されているらしく、友情や熱さが強調される作りになってるんだとか。

また、原作やアニメでは垣間見える程度であった、音楽の本質へ切り込んでいく姿勢が強調されていて、個人的にはツボであった。"天才・平沢唯"と、それに引っ張られていく梓の存在が印象的だった。

結果として、図らずとも「けいおん」が(広義の意味で)脱構築されている。ストーリーだったり、設定だったり、キャラクターの生い立ちだったりといった、「けいおん」の諸要素を一度バラバラにして、作者の妄想をフル活用した改変を行いながら、再度これらの3冊として組み上げられている。ちなみに3冊とも、ベースとなるストーリー・設定は一緒で、それぞれが異なる視点・角度から書き直されたものになっている点も、実に興味深かった。





という訳で以下ネタバレ時間(タイム)。







わたし高校の頃 平沢唯とバンド組んでた事があるんですよ


唯が音楽の天才だったら・・。というifが物語の核となる。桜高卒業後、リアルな日常を過ごす元HTTメンバーの中、唯は一気にトップミュージシャンへと駆け上がってしまう。この二つの対比が、いい塩梅にお互いを強調し合っている。

しかし彼女らのその後のときたら・・。澪と梓は、"天才・平沢唯"の影響にガンジ搦めにされた人生を送る羽目になる。その意味では、律と紬の二人は彼女らと好対照である。

澪は、唯への嫉妬に狂いながら、自堕落な20代を過ごす(ひきこもり、ネット依存、過食←この描写がまた・・)。その後、律に救われる形でガテン系職業に。かつてのHTTの輝きとのギャップから、読んでて一番痛いキャラであった。キャラクタナイズされた架空の(理想上の)女の子が、現実に起こりそうな下降線をたどっていく痛さは同人ならではだ。あともうこれはエロ同人のお約束事として、どこぞのエリートオヤジに開発されちゃってたよorz 澪ファン憤死ものだろ。

梓は、唯の存在に縛られるという意味では澪と同じだが、それでも音楽の世界に残ろうとする。アマチュアバンドを経て、一応のプロデビューをするも、解散、元メンバーのファンにレイプされる。路上で細々と弾き語りを続けるが、ある日吹っ切れて、ミク曲、コスプレ、アキバアイドルへ。唯の死の後、オタク音楽からは身を洗い、ジャズが得意なCDショップの店員になる。一度は挫折するも、立ち直り、自分のための音楽を続けていくという、俺の大好きな流れ。

律と紬は、それぞれ形は違えど、HTTや唯とは完全に距離を取り、己の人生を歩んでゆく。原作コミックでは4人とも同じ女子大に進学したはずだが、本作ではガテン系職業に就く律。落ちぶれた澪に対する、律の変わらぬ友情は見どころだ。紬は在学中、一時露出狂のケに目覚めかけるも、以後は結婚し、金持ちらしく落ち着いた人生を歩む。

そしてやはり唯の最期だ。ホテルの一室で、オーバードーズで失禁しながら死にゆく唯は、元メンバーの誰でもない、妹・憂のことを想いながら死んでいく・・。ちなみに次ページで、ミュージシャン・唯の死が報道された街頭スクリーンを見た梓は、衝撃のあまり失禁という流れに。この辺りの流れは是非実際に読んで確認していただきたい。実際、かなり神がかっているので。


最後にちょっと思ったのが、主要キャラにおける、それぞれが持つそれぞれへの印象とか対人関係だ。唯・澪・律・紬・梓の5人いる訳だから、主体⇒客体という関係性、つまり主体が客体のことをどう思うのかという関係値は20通りあることになる。原作ではもちろん20通りがきっちり描き分けられており、若干紬が浮いた存在になりがちだったが、それでもほぼプレーンで強弱のない表現がなされていたように思う。ところが蛸壷屋の場合、それが非常に偏ったパターンになっており、これがまたいかにも同人誌的な、良い意味での違和感の原因になっていたのではと思う。

唯以外の4人の唯に対する印象は上記の通りだが、逆に唯を主体とする4人への描写は、これが驚くことにほとんど描かれていない。「万引きJK生 けいおん部」で律との絡みがある(ほとんど原作と同様の感じ)が、それを除けば唯がHTTの4人に対して何ら心理的なアクションを起こしていないのだ。原作ではお決まりの「あずにゃん」をいじるシーンも皆無だった。唯が、特別で「向こう側」の存在であるという設定を上手く活かした描き方だったと思ったし、逆に他の4人の唯への想いを追っていくことで、唯の特異な環境を浮き彫りにできていたんじゃないかと。ちなみに唯を主体とした対人関係は、妹である憂がほぼ唯一にしてメインのものとなっており、これまたどうしようもない同人臭を放っておりましたよえぇw


以上終わり。

しかし何ともまぁショッキングな出来映えであったよ・・。読んで無条件に面白いものではないので(そういう思考停止的な面白さは原作・アニメが担ってたハズ)、誰かにすすめる気があんまり起こらないんだ・・。が、我こそはと思う真のけいおん厨は、ぜひトライしていただきたい。